往年の名作、『カサブランカ』をようやく視聴しました。
噂のとおりヒロイン役の方が激しく美人でした。
それは”君の瞳に乾杯”などという戯言も出てくるわいというほどに。
チャップリンの映画とかでも思うのだけれど、この時代の女優さんの美しさってちょっとタガが外れてますよね。美のために作られた作品みたい。
舞台は現モロッコの沿岸都市カサブランカ。
現在ではアフリカ有数のコスモポリタンですが、その土台となったフランス植民地時代の開発といったところでしょうか。
僕はモロッコいったときにカサブランカには行きそびれているので、いつかは行ってみたいと思うものの、まあしばらくモロッコはいいかな、疲れるし・・・だなあ。
モロッコの人(というかアラブの人?)って距離感つめるのが激しくてぐいぐい来る人が多いから疲れるんですよね。日本人の距離置き方もちょっと離れすぎな気はしますが、そのギャップで余計きつかった笑
カサブランカといえば Casa blanca でスペイン語で「白い家」という意味です。何故白い家??そして、何故フランスの植民地なのにスペイン語だ…?
と疑問に思って調べてみると、そもそもカサブランカはポルトガル人によって建設されたらしい。
ああ、なるほどね。ポルトガル語とスペイン語なんてだいたい同じだもんね(ちょっと乱暴。)
が、なぜ「白い家」なのかは依然わからず。
Contents
あらすじ
フランス領モロッコの都市カサブランカで賭博場を営む主人公リック。元々ニューヨーク出身の彼は、第二次大戦下でナチスドイツ軍に陥落されたパリを終われてカサブランカにきました。
当時、カサブランカはヨーロッパの戦火を逃れてアメリカへの出国を望む人々が集まり、出国ビザの発給を待つ人でごった返していました。
反ナチスの左翼思想を持つリックは、経営する賭博場で出国を望む人々を意図的に勝たせ、陰ながら出国を支援していました。
そこに現れたのが、反ナチスの地下組織の重要人物でナチスに目をつけられている男性ラズロと連れ合いの女性が現れます。偶然にも彼女は、かつてリックがパリで人生をかけて愛したイルザという女性でした。
パリでラズロが殺害されたという報を聞き、イルザが打ちひしがれていたときに出会ったのがリックでした。二人は真実の愛を誓い、ドイツ軍が迫るパリから一緒に逃亡する約束をしましたが、時間になってもイルザは現れず、愛しているが、どうしても一緒にはいけないという手紙だけがリックに届けられました。その時になってラズロが生きていたことが発覚したのです。
カサブランカからアメリカへの出国を望むラズロとイルザですが、彼がナチスににらまれている以上、出国の許可が下りません。イルザひとりなら出国できるものの、離れ離れになることはできないとイルザは単独での渡米を拒みます。
しかし、リックは偶然にも知り合いから預かった通行証を持っていました。元の持ち主はすでにナチスに捕られてしまったため、通行証はリックの好きに出来ます。通行証を自分のために使えば、母国に帰ることができる。しかし、ラズロにこれを渡せば2人を救うこともできるのです。
愛、嫉妬、利己心、復讐心、信念などに板挟みにされたリックは悩みます。
これをラズロに渡せば、イルザは永遠に彼のものになり、自分の恋敵を救うことになります。リックは自分を見捨てたイルザをまだ許したわけでもありませんでしたし、彼女への愛も消えていませんでした。
しかし、ラズロとリックは政治的には同じ方向をみており、組織の重要人物であるラズロを救うことは、リックの信念を守るためにはこの上ない行為でもありました。
一方、通行証をラズロに渡さず、ラズロ確保に協力すれば、リックは地元警察やナチスからの疑いを晴らし、これからも出国者の支援を続けることができます。裏切られたイルザはリックから離れていくかもしれませんが、パリでの裏切りに対しての報復をすることができます。
また、ラズロではなく自分を選ぶようにイルザを説得し、自分とイルザの2人でアメリカへ出国するという選択肢もありました。イルザのリックに対する愛も、いまだ消えたわけではなかったからです。
果たして、リックは何を選択するのか・・・
貫くは愛か信念か・・・
リックの選択は、通行証を譲り、ラズロとイルザの2人を出国させることでした。イルザの気持ちを確認できたリックは、彼女とのパリでの思い出を永遠に胸に刻みながら、愛する人を見送る覚悟を決めたのです。
さらにリックとイルザの関係に築いているラズロも、それを責めるでもなくリックに感謝します。リックは自分を犠牲にしながら愛の行為を貫き、同時にラズロを支援することで、信念も守ったのです。
2人を出国させるために地元警察のルノーを脅迫したリックですが、リックの信念の行動を見て、ルノーも実は反ナチスのフランス愛国者であることを明かします。
リックを捕らえるかに思われたルノーが逆にリックに逃亡を手助けするオファーをし、新たな友情が生まれたところで、映画は終幕します。
当時の世界情勢
『カサブランカ』が公開されたのは1942年です。
当時は第二次世界大戦中で、ナチスドイツによってフランスは早々に陥落していました。
フランスでは第3共和政が破壊され、ナチスの傀儡政権であるヴィシー政府が成立。リックとイルザがパリで出会ったのはこのタイミング。
ラズロの出身地であるチェコスロバキアは大戦前にナチスによってすでに解体されていますから、ラズロのナチスに対する燃えるような反骨精神にも納得です。
また、当時のモロッコはフランスの植民地ですから、本国が敗戦している以上、植民地の都市であるカサブランカもドイツに屈服している状況です。フランス植民地でドイツ軍が幅を利かせているのはこういう事情。
このような背景を鑑みると、リックの賭博場でドイツ人たちが愛国歌『ラインの守り』を歌っているときに、ラズロの筆頭に人々がフランス国家『ラ・マルセイエーズ』で対抗するシーンがいかにパワフルなシーンかわかります。
ラ・マルセイエーズはフランス革命のときに革命派によって歌われた歌です。フランス革命といえば極めて左翼的な革命に発展し、モダニズム誕生の鐘を鳴らした歴史の一大転換点です。
フランス国民軍が、反革命的介入を行うプロイセンの正規軍を破ったヴァルミーの戦いをみたゲーテは「ここから、そしてこの日から、世界史の新たな時代がはじまる。」と言いました。
市民の集まりにすぎない国民軍が、傭兵を集めた正規軍破ったのですから、まさに革命精神の勝利ということです。
このあと、確かに世界史は「君主の時代」から「市民の時代」への変容していきます。
”革命の熱さ”を見たい人は『レ・ミゼラブル』(2012)でも見てください。マジで熱い。
ただこの革命のせいでナポレオンが出て、以後諸国民の春の反動でも多くの争いが起きました。
さらにフランス革命の系譜から生まれた共産主義を掲げたフランス革命Part2ともいえるロシア革命。そして生まれてソ連。
こいつもまた大戦と冷戦、そして粛清を経て1991年にポシャった。
なんでも急進的すぎる改革派はうまくいかないものなのか…。
おっと話がそれていますな。
要するにそれだけ歴史を大きく動かした革命精神は「自由・平等・博愛」なわけで、権力を民衆へという方向に突き進めた革命の象徴が『ラ・マルセイエーズ』ということ。
一方、現在の悪者ナチスドイツは「全体主義・独裁制・差別主義」ということで『ラ・マルセイエーズ』的な精神から真っ向対立。お互いにもう「大っ嫌いだ!大っ嫌いだ!!」状態なわけです。(1:42)
(なのに左翼を推し進めた共産主義も結局は全体主義になるのが興味深いですよね。現代のスタンダードになりつつある西洋自由主義思想は戦時中はファシズムと共産主義という真反対の全体主義思想2つの板挟みだったということですね。まずは共産主義と手を組んでファシズムをぶっ飛ばしたら、さて冷戦だ、共産主義に殴り掛かろう、という感じ。)
まあまあ、そんな大嫌いなファシズム国家に侵略されたフランスが、ドイツ軍に対して歌う『ラ・マルセイエーズ』。うーん、実にアツイ。名シーンです。
しかし一方で、当時はまだこの後にナチスが没落することはわかっていないときの映画ですから、やはりプロパガンダ映画なのも間違いありません。
とにかく枢軸国が悪者の映画です。
最後にルノーが「Vichy」とかかれたボトルを捨てるシーンなどはあからさまなナチス傀儡のヴィシー政権批判だし。
1942年段階ではまだ連合国にも被害者の感はありますが、この後に彼らもドイツを骨抜きにして分割支配し、日本には核兵器まで使いますから・・・もうお互い様ですよね…
それでもホロコーストばかりが負の歴史として語り継がれ、ノルマンディー上陸作戦は英雄的に語られるし、ヒロシマ・ナガサキへの賠償なども問われず向き合うべき負の歴史としてアメリカ国民にはあまり認識されていないところを見ると、やっぱり歴史は事実がどうであったかではなく、正義を押し付けるのに成功した勝者が事実をどうみたか、に尽きるのだなあと思います。
ベトナム戦争に負けたアメリカはしっかりこの戦争については負の歴史として受け止めている感じがしますしね。負けたから。
日本だって第二次世界大戦は負けたから反省してるけど、韓国と中国や東南アジアの国で散々やっているくせに、彼らに負けたとは思ってないから反省の色が薄いし・・・
芸能人が叩かれてからよく謝罪してますが、結局怒られないと行為を反省できないのが人間なのかしら。
あ、また話がそれましたね。
プロパガンダ映画なのに、これほど上手に作られたら、ぐうの音も出ないよねー、ということ。
あ、最後につけたし。
話が世界大戦なので連合国と枢軸国の対立に注目していろいろ書いてみたものの、話の舞台はモロッコです。
つまりもともとはどっちのものでもないわけです。
モロッコの現地民からしたら、どっちも急にズケズケと入り込んできた面の皮が厚い強欲な列強帝国主義国の迷惑太郎さんたちですよね…。
いかに正義を語ろうと、プロパガンダで喧伝しようと、モロッコにはモロッコ人の皆さんがいるのだということを忘れていけないなと思います。いやほんと。
愛とは…
この映画のテーマは何といっても「愛」に尽きるのではないでしょうか。
異性への愛。
祖国への愛。
思想や信念への愛。
愛の強さのグルーブだけで話が展開しているようなもの。
結局は祖国、そして信念への愛をとったリック。
イルザへの愛は諦める選択をしました。
しかし、映画を観た人ならきっとわかるハズ。
リックは本当にイルザへの愛を諦めたのでしょうか…?
これは愛の定義の話になってしまいますよね。
果たして本当の愛とは何なのか??
一見ロマンティックだけど、どこか利己的な「愛されたいと願うこと」が愛なのか、
実に美しいけどそんなのちょっと辛すぎない?という「相手の幸せだけをひたすらに願うこと」が愛なのか。
2人が互いに求めあい、前者と後者が同時に達せられるのであれば、めでたしチャンチャン、でいいのですが、『カサブランカ』ではこれが上手にあちらを立てればこちらが立たないように話がつくられています。
しかもここに政治的な信念も絡んでくる。
なんで恋敵のラズロが、リックの思想のヒーローで、しかも超絶いいやつなのか。
やはり古典を観たり読んだりするたびに思うのはこういうところのプロットの力強さです。
なんか安易にタイムトラベルとかさせて感動的なシーンを作り上げるみたいなやり方とは一線を画す本質的な筆力という感じ。もうシェイクスピア。
つまり、リックはイルザへの愛について諦めたわけではなく後者の愛を貫いたということですね。
さらにイルザには、思想的にも信頼に足る男、ラズロがついているわけですから、愛のために、そして信念のために、ラズロとイルザの2人を出国させるのが最良の選択だと覚悟を決めたのです。
最後にこれでリックがただ犠牲になるわけではなく、その覚悟に共鳴したルノーという友を得るところも、話の落ち方としては素敵ですね。
字幕が秀逸すぎる…
余談です。
もともとのセリフがそもそも名セリフなんですが、字幕が秀逸すぎてさらに引き立つのがこの映画の特徴か・・・
有名どころは以下。
Here’s looking at you, kid.
「君の瞳に乾杯」
「瞳」という言葉を訳に入れるところがしびれます。
We’ll always have Paris.
「君と幸せだったパリの思い出で俺は生きていける」
原文のほうが、愛の言葉としてだけでなく「大戦下で陥落したパリはきっと蘇る」という信念の言葉としてもダブルミーニングで受け取れる良さがあります。とはいえこの力強くも淡泊な表現を、「思い出で俺は生きていける」とすることで一気に驚異のエターナルラブロマンスパワーを発揮しだすのだからすごい。
Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship.
「持つべきものは友だな」
持つべきものは友という決まり文句の元ネタはこの訳語ですか?だとしたら本当にこの字幕者は名訳を生みまくってますね。
が、僕が個人的にイチバンしびれまくったのは以下の訳。
I love you so much.
「幸せすぎて怖い」
これ凄すぎませんか?
ドイツ軍が近づくパリ。一緒に逃亡の約束をしたリックとイルザ。
悪い胸騒ぎを覚え怯えながらもリックへの愛を伝えるシーンのセリフです。
愛と緊迫感をこの一行でバシッと表現する名訳に脱帽しました。
この I love you so much. はまさにこの意味で言われている!と思えるシーンなんです。
まとめ
やっぱり古典に外れはない・・・。
歴史を知っていると、映画の味わい方にも幅が出てきてより楽しいなあ、勉強してきてよかったと思う今日この頃。
反対にこういう映画をみて歴史などに関心を持つ人もたくさんいるだろうから、やっぱり芸術っていいものですね。
それでは、読んでくれてありがとうございました。