ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
誰かが言った。
「自ら輝く星が恒星。だから太陽は恒星よ。
自ら輝く星が恒星。だからあなたも恒星よ。
だけどあなたはポンコツ恒星。 あなたはみんなと違うのよ。」
太陽の光は強くて明るい。
ぼくの光は弱くて暗い。
それも問題なんだけど、もっと大事な違いがある。
太陽の光はこの宇宙のように、視界いっぱいに広がる。一気に全体を明るくできるんだ。ぼくは自分いがいの恒星は太陽しかしらないけれど、恒星っていうのは普通そういうものらしい。
ぼくはひとつの方向しか同時には照らせない。ぼくが前を照らしているとき、後ろは真っ暗だ。後ろだけじゃない。右も左も、上も下も、真っ暗なんだ。
だからぼくはポンコツ恒星。
真っ暗闇をひたすら進む ぼくの放った光
何を照らすこともないから どこに行ったのかわからない
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
せめて何かを照らしていたい。
ぼくはいつもいつも何かを探して、どこかを照らしつづける。
前。右。上。後ろ。下。左。前。
それはまるでサーチライトのよう。
太陽がぼくに言う。
「何か照らすものは見つかった? ・・・そう、なかなか大変ね。私はたくさんの惑星をもう見つけてあるから、ひとつくらい分けてあげたいのだけれど。 そうよ、自分の照らすものは自分で見つけなきゃね。」
何を見つめていたいんだろう
何を追いかけたいんだろう
何を温めたいんだろう
何を 探しているんだろう
真っ暗闇をひたすら進む ぼくの放った光
何を照らすこともないから どこに行ったのかわからない
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
太陽が言う。
「あなたはポンコツなんかじゃないわ。たくさんを照らすことはできないかもしれないけれど。たったひとつに全ての光を注ぐなんて、それだってとても素敵なことなのよ。」
なんだか太陽と話したくない気分で、ぼくはそっぽを向いて無視してしまった。その間にもぼくの光は無限につづくの暗闇を進みつづける。何も見えないから、ぼくは本当に自分が光っているのかどうかさえ、もうわからなくなっていた。
「あなたの光り方を求めている人もいるはずよ。羨ましがっている星もあるはずよ。」
太陽の言葉が、ぼくの核をかすめて通りすぎてゆく。
ぼくの光は一か所に集中するけれど
その光でさえも、太陽のそれよりは遥かに弱いんだもの。
ポンコツ恒星は考えることすらやめて、
だらだら だらだら と、闇雲に光を動かしつづけた。
真っ暗闇をひたすら進む ぼくの放った光
何を照らすこともないから どこに行ったのかわからない
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
ぼくがそう呼ぶ ポンコツ恒星
長い長い月日が経って
長い長い歳月が経った。
たくさんが生まれて
たくさんが消えていった。
それほどの時が経った。
ポンコツ恒星は まだそこにいる。
ポンコツ恒星の光は少しずつ弱まっていった。ただでさえ弱かった光が、もはや彼からは点のようにしか見えないほど遠くにある恒星の光にさえ打ち消されるほどになっていた。
もうずいぶん、太陽のほうは向いていない。
彼の光は、今にも
燃え尽きようとしていた。
彼は恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
光るのをやめた ただの塊
「おい、あんた。」
誰かが話している。
「おい、あんた。」
真っ暗から声だけが聞こえる。返事はない。
「おい、あんたに言ってるんだ
あんただろ?ポンコツ恒星ってのは」
ぼく?
誰かがぼくに話しかけている?
ぼくは声が聞こえる方を照らしてみた。久しぶりに光った気がした。
「やぁ、気を悪くしないでくれよ。ポンコツなんて呼んでさ。
でも他に呼び方がわからないんだ。」
照らしたほうからひとつの星がやってくるのが見えた。
昔に太陽から、燃えながら流れる星があるという話を聞いたことがある。
彗星というらしい。
「君は、・・・彗星?」
「あぁ。あんたたちは留まる星だろ。俺たちは動き回ってるんだ。俺たちのことを 旅する星 なんて呼ぶやつらもいるけど、まぁそんな聞こえのいいもんでもないさ。進みつづけるってのも、案外つかれるもんだぜ。」
「ふーん・・・」
ポンコツ恒星はふてくされたような返事をする。
「ははっ!本当にあんたは噂どおりの星だっ!」
「・・・噂?」
「そうさ、ずいぶん暗〜い恒星があるって聞いてたんだ。話してみたら、おいおい、気分まで暗くなっちゃってるのかい?」
「いいんだよ。好きに言えばいいさ、どうせぼくはポンコツさ。」
「いやぁ、ごめんよ、気を悪くさせるつもりじゃなかったんだぜ。でも恒星なのに明るくないなんて不思議なもんだよ。詳しく聞いてみたらなんだい。君は一方向だけを照らすんだろう?そりゃあ暗いわけだな。」
彗星はおしゃべりらしい。
「一方向しか照らせないんだよ。別に好きでやってるわけじゃないんだ・・・」
「でも照らす方向は自分で決められるんだろう?」
ポンコツ恒星は久しぶりに光を動かして何かを探そうとしてみた。
彗星が言う。
「そうそう!それだよ!光が動き回るなんて面白いじゃないか。君に照らされるのはなかなか大変なようだね。だから俺が前に通ってきた銀河の惑星たちのなかでは、『ポンコツ恒星に照らされれば幸せになれる』なんて噂をする奴も大勢いたみたいだ。」
彗星はもうポンコツ恒星のすぐ近くまで迫っていた。
「ぼくに照らされれば幸せ?そんなの馬鹿げてるよ」
「はは、そうかもなっ!でも事実はともかくとして、噂があるのは本当さ。実は俺もその噂が気になってちょっとこっちの方を通ってみたんだ。したらおいおい、本当に会えるとはな。」
彗星がポンコツ恒星の横を通り過ぎていく。彗星の炎はとても大きい。
通り過ぎる間際に彗星は大声で言った。
「悪い!おれは止まることができないんだ、彗星だからね。でもあんたと話せて良かったぜ!これからの道中自慢できるしな。」
(ほとんど自分が話してただけじゃないか・・・)
とポンコツ恒星は思う。
「最後にお願いしたいんだが、俺が見えなくなるまで俺の方を照らしておいてくれないか?おれはきっと近々燃え尽きて消えちまうからな。少しでも照らされりゃ、ちっとは目立てるだろう。
なにせあんたの光は特別なんだ。それじゃあな!!」
彗星は笑いながら叫んだ。
彗星はどんどん遠ざかって行く。近づいてきた時よりも早いみたいだ。炎が小さくなっていっているからそう見えるのかもしれない。
ずいぶん愉快な星だった。もうすぐ燃え尽きるとわかっているのに、どうしてあんなに楽しそうでいられるのだろう。
彗星は魂まで燃えているのかもしれないな。
旅する星 かぁ ・・・
宇宙には面白い星があるものだなぁ。
久しぶりに光ったポンコツ恒星は
再び光を動かして何かを探してみることにした。
真っ暗闇をひたすら進む ぼくの放った光
何を照らすかもわからないから ともかく光を動かしてみる
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
ずいぶんと前に太陽に言われた言葉を思い出していた。
「自分で照らすものは、自分で見つけなきゃね。」
「たったひとつに全ての光を注ぐなんて、それだってとても素敵なことなのよ。」
「あなたの光り方を求めている人もいるはずよ。」
それからもまだ何も見つからない日が長く続いた。
でもぼくは自分が光っていることはわかっている。
なんとなく 太陽の方を向いてみる気になった。久しぶりにみると、太陽の光は驚くほど明るい。たくさんの星が太陽に照らされている。ぼくの光は太陽の方を照らしたら、消えて無くなってしまいそうだ。
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
また少し元気がなくなりそうになったが、
彗星が最後に叫んだ言葉を思い出した。
“あんたの光は特別なんだ。”
あの噂話を信じてみてもいいのかもしれない、
とポンコツ恒星は思い始めていた。
真っ暗闇をひたすら進む ぼくの放った光
何を照らすかもわからないから 見つかるまで探し続ける
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
みんながそう呼ぶ ポンコツ恒星
ぼくは恒星 ポンコツ恒星 みんなとは少し違うけど
ぼくは恒星 ポンコツ恒星 ポンコツだけれど、それでも恒星
太陽の言葉の意味がわかったような気がしたポンコツ恒星は、何も見つからなくても、光を動かして何かを探しつづけた。
長い長い間、何も見つからないこともあったが それでも光を動かし続けた。
太陽が言う。
「お久しぶりね。最近は元気みたいで安心したわ。何か照らすものは見つかった?」
「元気なのかなぁ、わからないよ。でもまた頑張って探してみる気になったんだ。まだ照らすものは見つかっていないけど。」
「そう。きっとすぐに見つかるわ。忘れているといけないから、もう一度言っておくわね。 あなたはポンコツなんかじゃないわ。」
「覚えているよ。ありがとう。たとえポンコツだとしても、それでもいい気がしてきたんだ。ぼくにしかできないことかあると思う。」
太陽は、何も言わずに微笑んだ。
いつもよりたくさん話してしまったな。
再びポンコツ恒星は光を動かしはじめた。
太陽の周りにはたくさんの惑星があって、それより小さな星だってたくさんあって、その全部が太陽に照らされている。改めてみるとものすごい数だ。みんなとても幸せそうだ。
ぼくなんてひとつも照らしていないじゃないか。
太陽の惑星をよくみると、ポンコツ恒星はあることに気がついた。
星って・・・丸いよなあ・・・?
しかし太陽の惑星の大半はよくよくみると丸くないのだ。どうして今まで気がつかなかったんだろう。丸いのに丸くないということは、見えない部分があるということになる。
ポンコツ恒星は試しに、ある惑星の丸から形が欠けているところを照らしてみた。
あ!
その惑星はやはり丸い球体だった。
ポンコツ恒星の光によって、太陽の光が届かなくて真っ暗だった部分も明るく戻ったのだ。
太陽に照らせないところがあるなんて信じられない!
照らされた部分の悲しそうだった表情が少しずつ明るく戻ってゆく。
とても美しい星だった。
見えていない部分もこんなに美しいなんて。
真っ暗闇を明るく照らす ぼくの放った光
ぼくが照らさないと真っ暗だけど 本当は美しいところ
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
何かをみつけた ポンコツ恒星
それからポンコツ恒星は 惑星たちの裏側を照らし続けた。
意味を見つけたポンコツ恒星の光は次から次へと照らすものをみつけては明るくしていった。
惑星たちを照らすのに光を動かしているとき、一つの大きな惑星の後ろに、一瞬何かが照らされた気がした。
一旦光を動かすのをやめて、そこを注意深く照らしてみる。
あれはなんだろう。
手前にある大きな惑星と比べるととても小さい。
ポンコツ恒星は丁寧にそれに光を合わせた。
小さな 小さな 星だった。
本当に小さいのかはよくわからないけれど、大きな惑星が太陽との間にあって、その影にすっぽりと隠されていた。他の恒星の光は届いていない。
ポンコツ恒星は内側から何かが湧き上がる思いがした。
この星は今まで何にも照らされたことがなかったということ??
なんということだろう
照らされたことのない
星があるなんて!
誰にも見られたことない
星があるなんて!
ぼくは今までそれに
気づかずにいたなんて!!
ポンコツ恒星の光は
そこで止まった。
とっても綺麗だ。
その星は暗闇に置き去りにするには美しすぎた。
惑星たちの裏側も美しかった。
しかし、ポンコツ恒星はそれとは違う何かをこの星に感じていた。
声をかけてみよう。
「こんにちは!君は・・・?」
「・・・光 って暖かいのね。」
ぼくの光は暖かいんだ・・・。
ポンコツ恒星は当たり前のことにようやく気がついた。
「ぼくは・・・恒星。自分でもよくわからないんだけど、恒星なんだ。みんなはぼくをポンコツ恒星と呼ぶよ。光り方が少しおかしいんだ。」
「あなたことはときどき聞こえてきていたわ。太陽があなたを心配していると、惑星たちが話していたの・・・
私は・・・自分のことがわからないわ。誰も私を知らないから、名前もわからない。いてもいなくても変わらないの・・・」
「そんなことないさ。ぼくがこうして照らしているし、君はとても綺麗な星だ。」
ポンコツ恒星はずっとその星を照らし続けた。
ずっとあとにその星が答えた。
暗かったその表情は、明るくなりはじめていた。惑星たちの裏側のときよりもずっと長くかかったけれど。
「・・・そうね。あなたが照らしてくれたんだものね。
本当にありがとう。」
「ぼくはやっとわかったよ。本当は全ての一度に照らせれば良いのだけど、ぼくはそれができない分、何を照らすか選べる。ぼくが何かを照らすということには、それ以上の意味があるんだって。
君のおかげで気がついたよ。ありがとう!」
その星は
「おしゃべりなのね。」と笑った。
ポンコツ恒星は恥ずかしくなったが、彗星のことを思い出して考える。
彼もおしゃべりだった。
気持ちの良いくらい真っ直ぐ突き進んでいた。
燃えながら走りつづけていた。
少しは彼に近づけたんだろうか。
旅はできないけれど。ぼくも照らしつづけよう。
真っ暗闇を明るく照らす ぼくの放った光
ぼくが照らさないと真っ暗だけど 本当は美しいところ
ぼくは恒星 ポンコツ恒星
何かをみつけた ポンコツ恒星
「あなたはポンコツなんかじゃないわ。」
星がいった。
「わたしばかり照らしていてはダメよ。惑星たちの裏側もそうだし、他にもたくさん、あなたを必要としている星があるわ。ただ照らされるのとは違う。あなたのその小さな光に、みんな照らされたいのよ。」
ポンコツ恒星は忙しい。
一見暗くて見えないけれど、
照らしてみたら美しい。
そんなところがたくさんあった。
照らしていたいものが
たくさん たくさんあった。
太陽が言う。
「何か照らすものは見つかった?」
みつけたよ。
照らしていたいものが、たくさん。
誰かが言った。
「自ら輝く星が恒星。 だから太陽は恒星よ。
自ら輝く星が恒星。 だからあの星も恒星よ。
だけどあの星は不思議な恒星。
ちょっと変わったおかしな恒星。
誰かが待ってる ポンコツ恒星。」
とある遠くの宇宙の片隅。
今日も小さな光が動く。