自作の小説や詩など

『スイミングプール』(短編小説)

水中に落とされた


人生の始まり。

はじめに学んだことは どう泳ぐか。

年長者は言う。

このプールの大きさは長さ50m,幅15m,深さ1.3mだ、と。

スイム、スイム、スイム毎日。なんの疑いも無しに。

まるで機械が同じ作業を繰り返すように

これが人生だ。これが人生だ。プールの外は危険です。

安全なプールから出ないよう気をつけましょう。


知らないどこかからある男が現れた。

「お前はそのプールの本当の大きさを知らない。…プール、たぶん違うな…」

「なんだって?」

「変わるんだ。さもなければ永遠に知ることはないだろう。」

「大きさなら知っている。」

「君は知らないよ。私は知っているがね。でも長さと幅だけだ。深さのことはは…見当がつかない。ただ私はまだ…泳いでいる。」

「誰だって泳ぐさ。」

「奴らは浮いて流れているだけだ。決められたコースを、きちんとね。」

その男は来た方とは反対に泳いでゆき、やがて消えた。

目覚め。

スイム、スイム、スイム皆と同じ 一定の型で。

ーーー何を感じる?    

感じる?一体何を言っている?

年長者は言う。

「これが人生だ。」

この世界はなぜこんなに整っているんだ? このプールの壁はあまりに平たい。

誰も触れない壁。気づかれることない端。

誰も触れないから。

その壁

その底  


ーーー間違った 

何も感じない。触れたはずなのに 触れていない。

この壁は、 この底は 一体なんだ?

想像。

模造。 虚偽。 

疑心。 限界。

   

脳!

ともかく  前進。  進め!

あぁついにスイムとは何かわかった

進め!進め!

数年経って

スイム、スイム、スイム

これが人生だ

プールが今どこにあるかは覚えている

私は時々それを訪ねては人々が流れているのを眺める

実際のところ ここにプールはない

スイム、スイム、スイム

生物が躍動するように。

この海の大きさは見当がつかないただずいぶん大きい

幾多の経験。

タコ。

波。

洞窟。

流氷。

渦潮。

そして人々。外を泳ぐたくさんの人々。

ここは 安全だ。

さらに数年経って

スイム、スイム、スイム

ありとあらゆる場所を。

すでにこの海の本当の大きさは掴んだ…海、たぶん違うな。

ある海峡を見てからというもの深さについての見当はなくなった

ふと前を見ると あのプールの場所だ

ずいぶんと忘れていた

そこである男を見かけ 声をかけた

「お前はそのプールの本当の大きさを知らない。…プール、たぶん違うな…変わるんだ。さもなければ永遠に知ることはないだろう。」

彼は答える。

「大きさなら知っている。」

「君は知らないよ。私は知っているがね。でも長さと幅だけだ。深さのことはは…見当がつかない。ただ私はまだ…泳いでいる。」

「誰だって泳ぐさ。」

「奴らは浮いて流れているだけだ。決められたコースを、きちんとね。」

1分にも満たない会話だった。

その男は来た方とは反対に泳いでゆき、やがて消えた。

ABOUT ME
ささ
25歳。 副業で家庭教師をやっているので教材代わりのまとめや、世界50か国以上旅をしてきて感じたこと・伝えるべきだと思ったこと、ただの持論(空論)、本や映画や音楽の感想記録、自作の詩や小説の公開など。 言葉は無力で強力であることを常に痛感し、それでも言葉を吐いて生きている。 ときどき記事を読んでTwitterから連絡をくれる方がいることをとても嬉しく思っています。何かあればお気軽に。