「そんなに~」を意味する副詞の that、日本の英語教育で軽視されすぎ問題。
まあ口語だからでしょうか。
非常に非常によく使われる表現なので是非とも知っておくべきです。
Really? Is it that important?
「本当?そんなに大事なの?」
Yes, it is.
「はい、大事です。」
今回はプロテストソングとして有名な、若いディランの怒り『Masters of War』で勉強しましょう。
Contents
「Masters of War」における「そんなに~」を意味する副詞のthat
Let me ask you one question
『Masters of War』 – Bob Dylan
Is your money that good?
Will it buy you forgiveness?
Do you think that it could?
「ひとつ聞かせてくれ
お前の金ってのはそんなにいいもんか?
それでお前に許しが買えると?
お前は本当にそう思っているのか?」
まずは歌詞がクソかっこええのを堪能してください。
さて、2行目がポイントですね。
この文は Your money is good. という単純なSVCの文の疑問形です。
となると that は接続詞ではない。
位置的に後ろには形容詞の that しかないので、後ろに名詞を求める「あの~」の that でもないし、この位置に名詞があっても「お前のお金はアレである」という謎文になるうえ、goodが余るので全然ダメ。
ということでこの that は後ろにある形容詞 good にかかる副詞の that ですね。
(一応ちゃんと全部の可能性を検討しましたが、まあ見た目一発でわかるね。)
副詞の that は形容詞にかかって「そんなに~」という意味になります。
日常会話ではめちゃくちゃ頻繁に使うので覚えておくべし。
文法的な話や用法は下で詳しく。
「そんなに~」を意味する副詞のthatについての文法的な話
「そんなに~」を意味する副詞のthatの文法的なポイントと余談をまとめておきます。
- 単独の副詞として名詞以外を修飾する
- 意味は「そんなに」
- 疑問文・否定文で使われることが多い
- 口語的な表現であり、書き言葉の地の文ではあまり見ない。
- 口語ではめちゃくちゃ使う。
日本の英語教育界隈だと「thatの意外な意味」みたいな扱いだけど、実際はなめてるのかと思うほど使われまくる that の主要な用法のひとつ。 - 同じく「そんなに」を表す so はそもそも程度が一定以上であるという感じ。
「とても」に近い。「とてもってどれくらいさね?」というときに後から that節を付け足して「どのくらいの『とても』」なのか説明するのがかの有名な so ~ that構文の形。 - 一方で that の「そんなに」は「とても」という訳とは明らかに異なる。
「そんなに」という日本語が「その」という指示語から派生しているように、thatも元々は指示語。だから「そんなに」に対する「どんなに?」が薄っすら裏に想定されたうえで「そんなに~」って言っている感じがある。
Is your money that good?
「そんなにお前の金はいいもんか?」
この場合は
「お前は戦争して儲かるのかも知れないが、人がああやって死んでいて、お前は自分の部屋に隠れて指示だけ。そんなみっともない、許されないことをしてまで、そんなにお前の金って大事なもんなのか?」
のようなニュアンスがこの that の裏に見え隠れする。
Is you money so good?
「お前の金はとてもいいものか?」
これだとただ良さの程度がある水準以上か聞いているだけに聞こえる。
あくまで「感じ」の話だけど。 - このニュアンス、概ね合ってると思うんだけど、ネイティブの人に確認してみたい。
その他、歌詞の中の英語について
You that build all the guns
「ぜんぶの銃を作ってるお前だよ」
この言い回しが曲の序盤にたくさん出てきます。
人称代名詞に形容詞はかからない(限定用法では)のが原則ですが、これは that の関係代名詞節が You にかかってますね。
まあすべての原則には例外がありますゆえ。しかもこのルールはそれほど強いルールでもないですから。
かけるしかないときはかけるのです。
これは特に呼びかけ的なフレーズですしね。
ちなみに all は such と並んで冠詞を飛び越えて名詞にかかる珍しい形容詞。
Like Judas of old
of old で「昔の」とか「古くから」
ここでは新約聖書の4つ福音書に登場するイスカリオテのユダのことを
「かの昔のユダにように」と引くことで
嘘と裏切りにまみれた現代の masters of war 戦争の親玉たちをディスっています。
他にも以下のようにキリスト教の文脈を使った歌詞が出てきます。
Even Jesus would never forgive what you do
『Masters of War』 – Bob Dylan
「イエスでさえ、お前のすることを許しはしないさ」
All money you made will never buy back your soul
『Masters of War』 – Bob Dylan
お前が手に入れる金を全部つぎこんだって、捨てた魂を買い戻すことは出来ない」
to talk out of turn
ターン(順番)じゃないのに喋る。
弁えずにしゃべること、空気を読まない発言をすること、不適切なこと言うこと。
最後に曲を褒める
ものすごくパワフルな曲だと思います。
この時期のディランのイメージが、プロテストソングの旗手としてのイメージとむずびついてしまっているんだろうなあ。
この曲を22歳のときに書いているというのは早熟すぎて驚愕です。
平和を願う曲や犠牲者を悼む曲なら何歳が書いてもそれほど驚くべきものではないと思うのですが。。。。
戦争というものは、利益を獲得または保守するためのものがほとんどじゃないですか。
民族意識だの自由や民主主義を守るだのという崇高な目標みたいなものは、国民をその気にさせるための後付け。
そしてさらには戦争自体を通して金儲けをする人たちもいます。
アイゼンハワー元大統領が「軍産複合体」と呼んだものですね。経済が軍需に依存してしまう。
ディランがそこまで踏まえて書いた詩かはわかりませんが、歌詞の中で権力者たちが負う金についても触れていることでさらに鮮烈なプロテストソングになっていると思います。
反戦歌には市民の情感に寄りそう叙情的なものが多いですが、Masters of Warは実に叙事的。
戦争の風景と、それを生み出した人間に関する事実を淡々とつきつける。
乗っている感情は、ディランの怒りだけ。
その怒りがこんなにキワキワに鋭利なフレーズを生み出す。
And I see through your brain
『Masters of War』 – Bob Dylan
Like I see through the water that runs down my drain
「お前の脳が透けて見えるぞ
まるで下水を通る水が透けて見えるみたいにな」
Your ain’t worth the blood that runs in your veins.
『Masters of War』 – Bob Dylan
「お前は、お前の静脈を流れる血になんか値しないんだ」
凄い歌詞だ。
個人的に最後のブロックで、戦争の親玉たちが早く「死んでほしい」と直接表現してしまうところだけが、あまり素直に聴けないところ。
というか、ディランの若さが出ているのかもしれない。
ディランの歌詞では、突然に直接的に刺してくるような痛い歌詞が登場することはよくありますが、このように命が捨てられることに反駁するならば、命の捨てさせるような歌詞とは混ぜてほしくないと思ってしまう。
まあ、とにかく勢いをもって伝えるというプロテストソングとしてはこれでも正解なのかもしれない。
ディランのことだから、ディランがそう思ったからそう書いたって感じなんだろうけども(笑)
「The RoJ LiGht」というバンドによるカバーにアイコニックな映像を織り交ぜた良いリリックビデオを見つけたので載せておきます。
上のビデオほど真に迫るものはありませんが、こちらは断然かっこいい。
『SE7EN』のオープニング映像くらいかっこいい。
この曲はまさに時代を超えて歌われる名曲のようで、イラク戦争開戦の翌年(2004年)のアメリカの番組でPearl Jamがカバーを披露しています。
この時期にあえてカバーをするのには、この曲の力を借りて伝えるべきメッセージがあったということか。
ではこのへんで。
Masters of warには届いているのでしょうか?
Master of Lyricことボブ・ディランの詩集↓