比較級の強調とか言うと小難しいですが、日常会話でも使いまくる簡単な表現でございます。
これいくらだったと思う?(ウキウキ)
The answer, my friend, is blowi…
いいから答えてね。
…3000円くらいかな?
(You’re an Idiot, babe!)…フフ、ぜんっっぜんもっと安いよ!!
You got a lot of nerve.
これですね。
「cheaper!!」 ではこの煽り感は伝えきれません。
だから比較級の強調のしかたを覚える必要があるのです。
名曲『My Back Pages』のメインフレーズを取り上げていきましょう。
Contents
「My Back Pages」における比較級の強調
Ah, but I was so much older then
『My Back Pages』 – Bob Dylan
I’m younger than that now.
「あぁ でも僕はあのときはずっと老け込んでいて、今はそれよりも若いんだ。」
1行目は I was older という単純な文章に強調の so much を入れた形です。
比較級の強調は直前に much を入れるのです。
very では強調しません。
I was very old は言えるのに
I was very older は言えないというのが不思議ですよね。
2行目の that は1行目の全体の時制を受けています。
比較級の強調についての文法的な話
比較級の強調の文法的なポイントと余談をまとめておきます。
- 比較級の強調は直前に much または far を置く。
EX) This one is much cheaper than that one. - 比較級は very では強調できない。
- ちなみに最上級の強調は直前に much または by far を置く。
その他、歌詞の中の英語について
“Equality” I spoke the word as if a wedding vow
as if は接続詞なので、後ろには普通、節がきますね。
ただ特に副詞節をつくる接続詞の後ではSVが省略がよく起きます。
そういうときは「主節のS+be」もしくは「it + be」を補って読むとうまくいきます。
今回は「it were」を補って(仮定法として)
as if it were a wedding vow
「まるでそれが結婚の誓いであるかのように」
it が “Equality”として読むとすっきりしますね。
Half-wracked prejudice
こういう風にハイフン繋ぎの表現が名詞の前にあったらだいたい形容詞で、後の名詞にかかります。
「半分壊れた偏見。」
後に出てくる self-obtained professor’ tongue も同じ。
「自分で手に入れた教授の弁舌。」
Lies that life is black ad white
that節が同格で Lies にかかります。
「人生は黒と白だという嘘」
最後に曲を褒める
難解な歌詞です。
僕の解釈ですが、これは若いときにありがちな、思想や情熱にあてられて「主義」「信条」のようなものが先んじるばかりの強硬的な考え方をしていた時代を振り返っている歌ではないかと思います。
僕自身、初めてウォーラーステインの世界システム論やマルクス経済学を勉強したときは、それらが暴く世界の不正に納得できず、悩んだものです。今でもそういうモノの見方や、問題意識は大切だと思っていますし、このような思想や理論の学習は、思考するうえで良い道具になってくれるとも思っています。
ただ、思考のための道具であるという領分を越えて、これを主義信条として自分のアイデンティティとむずびつけてしまうと危うい気がします。(平和希求や男女平等は間違いなく大切な理想ですが、反戦主義者やフェミニストの一部には主義信条が前に出過ぎておかしなことになっている人が最近多いと思います。主義は結果的な分類で合って、自分で「私は~主義者」と言い出したら終わりです。)
これが苛烈な実行主義とつながると、穏やかでない展開となっていくのでしょう。
(まあ、そういう運動や革命で世界が動いてきたのですが。)
僕の実行主義は自分の世界に留まっていましたが、他者にまでそれが拡大するといけなかったな。
僕はその後も継続して世界を見て回ったり読書したり、いろんな働き方をしたりしていたので、僕を開眼させていた強烈な主義などもだんだんと、他の主義信条や社会理論のなかで相対化されていきました。
だからこの曲がそういう風に聞こえるのかも知れません。
まあ、そんな感じのフレーズをまとめてあげっから見てみんさいよ。
Rollin’ high and mighty traps
『My Back Pages』 – Bob Dylan
Pounced with fire on flaming roads
Using ideas as my maps
「高尚で強力な罠を張って、燃えながら炎の道を突き進んだ。
思想を僕の地図として使って。」
From phony jealousy
『My Back Pages』 – Bob Dylan
To memorizing politics of ancient history flung down by corpse evangelists
Unthought of, though, somehow
「インチキの嫉妬からはじまって
屍になった福音伝道師に投げつけられた古代の政治を丸暗記までした。
考えがあったわけではないんだけど。」
A self-obtained professor’s tongue
『My Back Pages』 – Bob Dylan
Too serious to fool
Spouted out that liberty is just equality in school
“Equality” I spoke the word as if a wedding bow
「自前の教授みたいな弁舌は、馬鹿に出来ないくらい真面目で
自由というのは学校のなかでの平等に過ぎないとか言っていた。
『平等』という言葉を、僕は結婚の誓いのように使っていた。」
Yes, my guard stood hard when abstract threats
『My Back Pages』 – Bob Dylan
Too noble to neglect
Deceived me into thinking I had something to protect
Good and bad, I define these terms quite clear, no doubt, somehow
「そう、僕は守りを固くしてた。
無視するには高貴すぎるような抽象的にぼやついた脅威が、僕をだまして何か守るものあるって思わせるたびにね。善と悪という言葉を僕はハッキリと定義づけていて、どういうわけか疑いはなかった。」
どうでしょう?
結構そういう歌っぽいでしょ?
こういうイズムに凝り固まった状態では、人として柔軟性がありません。
好奇心や興味関心も偏っていく。
これはまさに老け込んだ頑固オヤジとおんなじだ。
だから
Ah, but I was so much older then
『My Back Pages』 – Bob Dylan
I’m younger than that now.
と歌っているのかなあ、と。
最後に、元気で若いレジェンド親父たちで歌うバージョンを載せておきます。
このライブ版(えぐすぎるメンツ)が良すぎてこっちばかり聴いているかもしれない。
この伝説ライブのバージョンのおそらく元ネタのThe Byrdsによるかばーはこちら。
ついつい back (and forth) pages してしまうディランの詩集はこちら↓